Part #5
竹と熱の真実を検証する。竹を殺さない製法 - Non flame method 非炎製法 )
Truth and secrets of bamboo. Bad influence to the bamboo cells.
ジム・ペインが完成させた【 Brown Tone 】と呼ばれる、かの有名な赤味を帯びた濃い茶色。フライフィッシャーの羨望の的であるあの美しいロッドシャフトの色は、実はフレーミング加工と言う火で焦がす着色方法による茶色ではありません。また、仕上げのバーニッシュ(ワニス)の色でもありません。勿論、茶色い塗料を塗っているのでもありません。それは、ナチュラルカラー(ストローカラー)の竹をアンモニアガスを使って濃い茶色に染色した物なのです。それは、植物に含まれるフラボノイドの一種である「タホキシリン」と言う物質が、アルカリ性のアンモニアガスによって濃褐色に変色する性質を利用した、化学染色(着色)と呼ばれる方法です。化学染色は特殊な着色方法の一つで、水や液体、火などを使わないので、被染色物である竹の組織や繊維、細胞に変質や分解、過度の硬化などのダメージを殆ど与えずに着色できるメリットがあります。因みに、火で焦がす着色方法(フレーミング)では、焦げ方に斑ができてしまい、ジム・ペインのブラウントーンの様にシャフト全体を完全に均一な赤茶色にする事はできません。また、フレーミングでは無く、オーブンによる加熱でペインのブラウントーンレベルの色合いまで焦がすと、シャフトを硬くし過ぎると同時に細胞を熱で劣化させるので、竹その物の柔軟性や弾力性を低下させてしまいます。現在、ロッドの着色方法として一般的に行われているフレーミングと呼ばれる、「炎で竹の表面を焦がして茶色に変色させる」方法は、竹(植物)の細胞にとっては、非常に危険な着色方法であり、色を濃くしようと高温で焼き過ぎると、表面近くのパワーファイバーや、それを結束している柔細胞を炭化劣化させ、弾力性や結合性をを破壊する可能性があります。その為、ジム・ペインは、熱が植物細胞に及ぼす悪影響を考慮して、唯一、竹の細胞にダメージを与えない、このアンモニア染色と言われる化学染色を選んだと思われます。バンブーロッドの製法については、昔からメジャーなロッドメーカーが企業秘密としていた為、殆ど公開される事はありませんでした。しかし、近年になって一部のHow to 本などでバンブーロッドの製法が紹介されましたが、それは大手バンブーロッドメーカー達が企業秘密としていた製法ではなく、個人で作る個人の為のバンブーロッド製法、つまり、ホームビルダーと呼ばれる自分の為のロッドを作る人々の製法でした。ただ、実際にバンブーロッドを作るとなれば、その製法はごく少ない情報から学ぶしか無く、世界中の誰もがその少ない情報からバンブーロッドを作って来たのは仕方が無かったとも言えます。これは有名な話しですが、ジム・ペインはバーニッシュを含めたロッドシャフトの最終仕上げを、一人、鍵の掛かった部屋で行い、社員や友人すら、その工程を見る事が出来なかった事が伝えられています。これは、当時からペインロッドの美しいバーニッシュ仕上げを多くの著名なフライフィッシャー達が称賛していた事実を伝える伝説ですが、恐らく、この極秘にされていたペインロッドの仕上げの中には、アンモニア・タンニングも含まれていたと考えます。その為、この製法は一般に知れ渡る事無く、ペインのオリジナル製法として彼のロッドにのみ与えられた美しい色だったのだと思います。当時の顧客を含め、彼の周囲の人々はこの真実を知り得なかったので、ペインのBrown-Toneをバーニッシュ技術の賜物、神業などと、塗装技術の高さとして評価していたのは今に伝えられている通りです。
フレーミング加工でシャフトをマダラ模様に焦がされたバンブーロッドを初めて見た時は、その茶色い模様の美しさに衝撃を受けた記憶があります。それは、アメリカの東部の有名メーカーのロッドでしたが、当時、一般的だったブロンドのナチュラルカラーのロッド達が色褪せて見えた程です。それ以来、私の中ではフレーミング加工によるムラのある茶色こそがバンブーロッドの美しさだと思い込み、ロッドを作り始めてからも、当然のごとくフレーミングで表面を焦がしていました。しかし、事件は起こるべくして起こった様に思います。或る時、シャフトカラーを更に濃い茶色に、そう、ペインのBrown Toneの様な茶色に近づけようと、表面をいつもより長い時間バーナーで炙ってみた時の事です。真っ黒に焼け焦げた表面のエナメル質を剥がし、竹の地肌を出してから更に表面を平らに削っていると、何と表層近くのパワーファイバーがパラパラと剥がれてバラけてしまったのです。シャフト全体を茶色にしようとする余り、表面のエナメル質を焼き過ぎて下のパワーファイバー繊維まで加熱し過ぎていたのです。それは、パワーファイバーを纏めている竹の柔細胞を加熱によって炭化させ為、結束力を壊してしまったのだと解かりました。バンブーロッドで最も重要なパワーファイバー繊維を纏めている細胞(柔細胞)は、それほど高くない温度で劣化(熱分解)するのです。更に、パワーファイバーの繊維その物も、茶色に変色するまで加熱するとファイバー自体も炭化硬化して弾力性を失い切れ易くなります。この様に細胞を熱で硬化劣化させる行為を、一般的にはロッドを硬くする、或いはロッドに張りを出すと表現しているのですが、いったい何度まで加熱しても良いのか?表面をどの位、焼いても竹の細胞が壊れないのかと言う、確実な情報は有りませんでした。そして、それ以来、表面をフレーミングするのは最小限に留め、竹の繊維と細胞を炭化から守るように心掛けました。しかし、トーチで竹の表面を焼きながら、何時も心の中では不安に思っていました。もしかしたら、この黒焦げのエナメルの下で茶色に変色した竹の細胞は炭化しているのではないか?もしかしたら細胞が壊れて繊維が切れているのではないだろうか?パワーファイバーは結束が壊れてバラバラになっているのではないか?格好の良い茶色のシャフトにしようと耐久性を犠牲にしているのでは無いだろうか?そう思うと、どうしてもストリップが茶色になるまで竹を焼く事が出来なくなっていました。因みに、フレーミングに使うトーチ(ガスバーナー)の炎の温度は約1.500℃あります。竹の本体を茶色にするには表面のエナメル質を真っ黒に焦がす必要がありますが、そのエナメル質が燃える温度は1.000℃近くです。また、ストリップの曲げ直しをするアルコールランプの温度も最高点で約1.000℃に達します。また、良く使われるヒートガンの温風も500℃前後です。つまり、どれを取っても竹の細胞が炭化劣化を始める温度(170℃)よりも遥かに高温で加熱する事になるので、竹の細胞を破壊してしまうのです。フレーミングや火入れによる高熱で竹を焦がして茶色に変色させる方法は、表層のパワーファイバー繊維とそれを束ねる柔細胞を熱劣化(炭化)させる事になり、竹を硬くしたり、反発力を増す効果は多少あったとしても、同時に弾力性や柔軟性、耐久性を損なうリスクが大きくなります。フレーミング加工されたロッドシャフトは、短期間の使用であれば、硬さと張りをが増したと感じさせますが、逆に熱劣化(炭化)による竹細胞の柔軟性、耐久性の低下によって長期間の使用には耐えられないと考えられます。アメリカなどで公表されているペインロッドに関する資料や伝記などには、『フレーミングでBrown-Toneに仕上げているペインロッドは・・・・』、と平然と書かれている物もありますが、恐らく、それは『茶色=焦がす』と言う、著者の勝手な思い込みと思われます。事実、フレーミングによる表面処理では茶色に濃淡ができ、斑が出来てしまいます。つまり、実際のペインロッドの様な焦げ斑の無い、均一なBrown-Toneには仕上がらないのです。更には、ペインロッドの実物と同じ程度の茶色になるまで焼いて焦がすと、前記の様に竹の柔細胞が完全に熱劣化で脆くなり、パワーファイバーがバラバラに剥がれてしまいます。
では、レナードを始め銘竿と呼ばれるロッドの、その殆どがブロンドカラー(ナチュラル)なのは何故でしょうか?世界的な銘竿を輩出して来たイギリスのハーディー、フランスのペゾン、その他ギャリソン等々、その殆どがナチュラルのブロンド・ストローカラーです。そのフレーミングを施さないナチュラルブロンドのロッドシャフトこそが、レナード、ハーディー、ペゾンを初めとする銘竿達を現代まで数多く残してきた最大の要因と考えられます。フレーミングによるカラーリングがブームになって来たのはここ30〜40年程の事ですが、竹を炎で焦がすフレーミング着色の技術自体は決して新しい発明でも無く、最近のテクニックでもありません。竹を火で焼けば硬くなる事は世界中で千年以上前から知られている事であり、釣り竿以外の道具作りに誰もが使って来た技術です。では、レナードに代表される100年以上前のロッドメーカー達はフレーミングの技術や効果を知らなかったのだろうか?いや、そんなことは無いでしょう。恐らく全てのロッドメーカーは、当然、その知識も持っていて、フレーミングされたロッドのテストも行われたと思います。但し、一般向けに製品化されていたかどうかは、フレーミングロッドが殆ど現存していないので知る事は出来ません。ただ、それらのフレーミング仕上げが現在、殆ど残っていないと言う事実は重要です。竹を火で焼くと、硬さと張りは出せるが、弾力性と耐久性に欠けた折れ易いロッドになると解かっていて作らなかったのか?或いは、作ったロッドが殆ど折れたので現存していないのか?その答えは、作られなかったと理解する方が正しい様な気がします。現在の様に素晴らしい性能を持つカーボンロッドが発明され、フライキャスティングやロングキャストが容易になった環境では、誰もがフライロッドにその扱い易さを求めるのは当然の流れだったと思います。その結果、必然的に前世紀の道具であるバンブーロッドにも、カーボンロッドの様な扱い易さが求められ、より強く、軽く、キャスティングし易いバンブーロッド、カーボンロッドにも引けを取らない様なバンブーロッドを目指す必要があったのは理解できます。しかし、言い換えれば、カーボンロッドの登場と共に消え行く運命にあるバンブーロッドを延命させるための措置だったとも言えるでしょう。カーボンロッドが全盛の今、扱い難いバンブーロッドが唯一、生き残る方法として取られた措置。それが、近年のアメリカに於けるフレーミングや中空構造の広がりだと思います。つまり、現在作られているバンブーロッドの殆どは、過去の銘竿達の様な耐久性が全て、と言う釣り竿の原点では無く、寧ろキャスティング性能を含めた、一時的にでもカーボンロッドに匹敵する能力を持たせたいと言うコンセプトで作られているのです。つまり、バンブーロッドの釣り竿としての本来の使命である耐久性を犠牲にしてまで、軽く、硬く作る事を目指して生き残ろうとした結果だと言えるでしょう。
話は戻りますが、ロッドシャフトのカラーは好みの問題だけでは無く、その加工や製法がバンブーロッドの耐久性に大きく係ってくるのは前記の通りです。簡単に言えば、フレーミング(焦がす)=炭化=硬化、と言う事になりますが、硬化させてロッドに反発力を出そうとすると、同時に弾力性と柔軟性を失い、曲がりに対する耐久性を著しく低下させてしまいます。レナードはそれを重視していた為、炎による竹細胞の炭化・熱劣化を避けて、その殆どをヒートトリーティングのみのブロンドカラーにしていたと考えられます。それも、シャフトの色を見る限りでは、あまり高温、長時間の加熱は避けていたと思われます。因みに、現在もアメリカのメジャーなメーカーの中には、最初から最後まで全く竹に熱を加えずに製作しているところもあります。勿論、それらのロッドは表面を火で焼く事はないので、シャフトのカラーはナチュラルのブロンド・ストローカラーのみです。10年以上の時間を掛けた長期間の自然乾燥のみで竹を硬くし、更にそれをマシンカットでストレートなストリップに切り出してロッドシャフトを作っています。特筆すべきは、初めから大きく曲がっている竹は、焼いて曲げ直して使うのでは無く、廃棄しているのです。そして、残った約10%の真っ直ぐな竹のストリップのみがロッドになるのです。また、接着後のシャフトは、接着剤の劣化防止と耐久性を維持するために加熱による曲げ直しはしないので、シャフトが多少曲がっている物も多いようです。つまり、あらゆる点で、竹の柔細胞やファワーファイバーを熱によって殺す事無く、更には、バインディング後の接着剤まで熱劣化させない事で、強度と耐久性を維持しているのです。
幸いにも、竹と言う植物を日常生活の中で普通に使っている日本人ならば、他にも判る事が沢山有ります。例えば、焼き鳥の串です。誰もが馴染みの竹串ですが、御存じの通り直径が1〜2o程度の竹製です。それも、硬さを出す為に竹の外側の部分、つまりパワーファイバー部分を使って作られています。プロの焼き鳥屋で食べる場合はあまり見かけませんんが、自分で焼いた場合などには、よく、肉から出ている部分の串が焦げて折れてしまう事があります。真っ黒に焼け焦げてしまうと、焼き鳥を持ち上げる前に折れてしまい、持てなくなってしまいます。また、真っ黒とまでは行かなくても、少し焦げて茶色に変色した状態でも、食べている最中に手元が折れたり、曲がったりする事もあります。つまり、焼き鳥の竹串ほどしか無いバンブーロッドのトップ部分が如何に熱に弱いかと言う事がが良く解かります。自分のバンブーロッド先端部分が焦げた焼き鳥の竹串と同じだとイメージするのは実に恐ろしい事です。因みに、竹串メーカーも竹の強度と耐久性を増す目的で、バンブーロッドと同じ行程のヒートトリーティングを行っています。但し、温度はバンブーロッドのそれよりは、かなり低く約60〜70℃のようです。高温にしない理由としては、竹串を明るい竹色(ブロンド)に保つためで、高温加熱による変色を避ける為に70℃以下に抑えているのです。
また、ロッドメイキングでは普通に行われている火入れと呼ばれる作業も、バンブーロッドにとっては非常に危険な一面を持っています。元々のバンブーロッド用語では、『火入れ』では無く『熱処理(Heat Treating)』なのですが、日本では和竿の製造方法の中で、竹を直火で炙る事から、火入れと言う用語が使われています。ヒートトリーティングとは直火などの高温に晒す事では無く、オーブンなどを使って一定時間、一定の温度を保った状態で熱処理・加工する事です。そもそも、何故ヒートトリーティングをするのか?それには、幾つかの目的がありますが、一つは竹(植物)に含まれている水分を抜く行程です。それには2種類の水分があり、一つは【自由水】と呼ばれる普通に竹の中に含まれる水分で、もう一つは、【結合水】と呼ばれ、植物の細胞壁を構成しているセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどを結合させている水分です。ヒートトリーティングはこの中の【自由水】と呼ばれる水分を竹から強制的に蒸発させる工程です。自然の竹は中に豊富な水分を維持する事によって弾力性を持ち、強風でもしなやかに撓み、折れる事無く成長します。しかし、竹で釣り竿を作る場合には、青竹は重く、しなやか過ぎて張りが足りない為、乾燥させる事で水分を抜き、張りを持たせます。確かに、水分を抜く事によって、水の重量だけ竹は軽くなりますが、自然乾燥だけでは強度や耐久性に限界があり、十分乾燥させて張りと硬さを出した竹でも、折れ易く曲がり癖が付き易い物です。そこで、強度の限界を高め、竹を更に強い素材に変える為に、昔から強制乾燥や加熱による竹の細胞の強化が研究されて来ました。オーブンによる自由水の蒸発後に、更に加熱する事によって結合水まで蒸発させて細胞を炭化させると、竹が更に硬くなり、張りを出せると言う考え方もあります。しかし、これもフレーミングと同じで、加熱するほど硬くなりますが、同時に細胞の弾力性が失われて行きます。まだヒートトリーティング(熱処理)が竹に及ぼす影響を研究していた頃の事例ですが、電気オーブンで火入れ作業を行っていた時に、180℃で15分加熱の予定が、気付いた時には既に200℃で30分以上加熱していた事がありました。勿論、そのスプリットは茶色く焦げている程ではありませんでしたが、多少、暗色に変色していました。そして、そのエナメル質を剥ぐと、やはり下のパワーファイバーがバラバラに剥がれて来ました。それは、オーブンによるヒートトリーティング(火入れ)でも、ストリップの色が変わるまで加熱すると、柔細胞(木質細胞)が熱によって劣化してパワーファイバーの結束力を低下させる事が解かります。竹の細胞を構成するセルロース、ヘミセルロース、リグンンなどは、約170℃から熱分解と呼ばれる炭化が始まり、細胞の結合が壊れ始めます。その為、竹の強制乾燥や強化の為のヒートトリーティング(火入れ)は170℃を越えない範囲で行われる必要があります。つまり、パワーファイバー同士の結束を維持する為には、柔細胞が炭化する温度以下で熱劣化を防ぎながらストリップの強化をしなければなりません。即ち、170℃以下でヒートトリーティングする事は、竹を強制乾燥する作業であり、細胞を熱分解で劣化させる事無く水分を抜き、竹の強度と反発力を高める事なのです。これらの事から、見た目よ良くしようと行われる、着色の為のフレーミング、つまり、シャフトの表面を炎で焦がして茶色にする方法は、竹を硬くする効果以前に、パワーファイバー同士を繋ぎ止めている竹の木細胞を熱によって破壊し、脆くしていると言えます。次に挙げる例は、ロッドビルダーでなければ解からない症状かも知れませんが、ストリップを削って行く工程の中で、鉋の刃が少し深く入った際にパワーファイバーが束で剥がれて来る事があります。これは、鉋の刃をどんなに鋭く砥いでいても、刃がパワーファイバーを切削する前に、少し大きな力が加わった時点でファイバーを結束している木細胞が壊れてしまうからです。その為、鋭い刃で削ろうとしているにも係らず、パワーファイバーが手で裂かれた様に割れて、剥がれてくるのです。多くの場合、ロッドビルダーはこの状況を、鉋の刃が切れなくなっていると思い込み、より鋭く砥ぎ直そうと考えます。しかし、これは、刃が切れないからファイバー剥がれたのでは無く、ストリップ(竹)を170℃以上の高温に加熱しすぎた為に、パワーファイバーを束ねている木細胞(柔細胞)が劣化して壊れ易くなっていたから起こったと考えるべきでしょう。
地域にもよりますが、竹は北海道のような空気が乾燥した土地では、10年の自然乾燥でかなりの水分が抜けて硬く乾燥します。また、梅雨が無いので、カビが生える事も殆どありません。因みに、アメリカ、ニューヨークのキャッツキル地方の気候・風土は北海道のそれにとても良く似ています。冬は雪が降り、空気もかなり乾燥します。実際、丘陵地帯であるキャッツキルの山々見ていると、まるで北海道の山に居るような錯覚さえ覚えます。話は戻りますが、ヒートトリーティングの時間に関しては、竹に残存している水分(自由水)の含有量によって変わるので、何分が良いと言う正解はありません。やはり、答えを求めるのであれば、乾燥強化したストリップを折ってみる事で、強度を調べる他はありません。一般的に植物細胞の炭化とは炭(カーボン)になる事で、例えば、木を炭化させた木炭は硬くて全く曲がりません。また、伸び縮もしません。極端に言うと折れるか割れるかのどちらかです。折れると言うのは道管など維管束(ファイバー)と呼ばれる縦方向の繊維が切れる事で、割れるとは、縦の繊維をを束ねている柔細胞が壊れる事を指します。ですから木や竹を炭化(熱分解)させても、竹の細胞が強くなるのでは無く、逆に硬くなって弾力性や伸縮性が失われるのです。例えば、カーボンロッドに柔軟性や弾性をもたらすのは、カーボンの繊維ではありません。カーボン繊維自体にはゴムの様な伸縮性は無く、それを包み固めているエポキシ樹脂に柔軟性や可撓性があるのでカーボンロッドに弾力性が生れるのです。
バンブーロッドと加熱の関係を調べて行くと、全く『火入れ』をしない製法、つまり、乾燥した地域で長期間自然乾燥させた竹は強制的に『火入れ』する必要は無い。或いは、寧ろ加熱しない方が細胞も劣化ない分、耐久性もあ伴う。と言う研究結果を欧米のメーカーが発表しているのを目にします。そして、私も様々な研究や経験から『火入れ』と言う作業その物に疑問と不信感を持ち、納得できない部分と、その本質をより深く追求しようと考えました。やはり何処か変だ。竹を高温で焼く事で、本当に竹を乾燥する以上のメリットが有るのだろうか?一般に言われて来た、加熱して炭化させる事で竹が強くなる、カーボン化する、強度が増す、ヤング率が向上する、弾力性が増す、などは本当なのだろうか?そして、そのディメリットは・・・・?いつ、誰が言い始めたのだろう?いつ頃から、煙が出るまで真っ黒に焦がしても良くなったのだろう?世界的に有名なロッドメイキングのHow to 本だろうか?私を含め、世界中の殆どのビルダーが少なからず影響を受けた、その伝説のHow To 本の製法を全て信じ切っていたからなのだろうか?或いは、あまりにも情報が少な過ぎたのか?そして、何度、実験しても結果は変わりません。加熱して炭化するほど硬くなって脆くはなるが、弾力性や耐久性を維持する事は出来ないと思いました。これらの竹の硬化はカーボンロッドの強さに対する憧れなのか、バンブーロッドの弱さを払拭したいのか?或いは、和竿の影響なのか?竹は焼くと強くなる、と言うのが実しやかに語られ、誰もが疑う事は無かったのは確かです。これらの加熱や焼き、焦がしなどの加熱は、竹を強くしているのでは無く、硬くしているだけなのです。これこそがバンブーロッドの釣り竿としての耐久性を落とす最大の原因となっているのです。WEBサイトを調べていると、釣り好きな欧米の大学教授がバンブーロッドメイキングに於ける竹と熱に関する科学的実験や研究のデータを公表しているサイトもあります。結論としては、やはり、竹の細胞は加熱する事によって多少、硬くする事はできるが、ある温度以上になると逆に竹の柔細胞やファイバーが熱分解(炭化)するので、竹の細胞自体が劣化して脆くなり、壊れ易くなってしまう。過度の加熱はバンブーロッドメイキングにはお奨めできないと言う物です。つまり、ある程度、加熱する事はバンブーロッドを硬くする効果はあるが、どの程度まで加熱するのかが重要で、加熱し過ぎると逆効果になると言う事です。ヒートトリーティングの温度や時間については好みや、考え方によって色々な意見があります。しかし、反発力を求めて硬くすると、当然、同時に弾力性や耐久性が失われて行くので、耐久性を落としてまでキャスティング性能の為に硬くするのか、或いは、実釣の為に弾力性を残して耐久性を向上させるのかは、意見や考えが分かれるところです。但し、それらの両方をクリアーするポイントは、科学的にも確定できないと言うのが、天然素材に対する答えでもあります。ヒートトリーティング(加熱処理)は、やはりバンブーロッドにとって重要不可欠な処理である事は確かです。その本当の目的と効果は、竹が炭化し過ぎない程度の温度処理で竹から水分を抜き、細胞を多少硬化させる事によって、ストリップの【復元力、反発力】を高めて、曲がり癖を付き難くするのが目的です。竹を硬くして反発力だけを増すのは、ロッドが折れるリスクを高めるだけで、硬いロッドほど短命に終わります。ですから、バンブーロッドにキャスティングのし易さや、好みのアクションを求めるのであれば、竹を焼いて硬くするのでは無く、テーパーデザインや竹質で作り上げるべきだと思います。
私事ではありますが、ペインのロッドを手に入れた時の衝撃は今でも忘れる事ができません。当時はまだ、詳しく調べる以前だったので大きな疑問ではありました。この美しいシャフトの色はどうやって付けるのだろう?フレーミングで焼いているのだろうか?しかし、シャフトには斑や濃淡が無く、ティップからバットまで均一に美しい赤茶色で仕上げられているのでフレーミングで無い事は判りました。では、ペンキが何か、塗料で着色しているのだろうか?いや、それも違う。竹の表面にはパワーファイバーのラインが見えているし、透明感もある。色々考えてはみましたが、その時は全く判りませんでした。後になって、Webの発達と共に少しづつ情報を集められる様になり、色々と判って来ました。ジム・ペインも、その後継者であるウォルト・カーペンターも Brown Tone についての詳細は公開していませんでしたが、アメリカのWebサイトには、それらしき秘密を公開しているサイトも幾つかあったので、少づつ調べ上げ、分析・研究して知ったのがアンモニア・タンニングによるBrown Tone でした。更に、それを研究・分析している内に、シャフトのブラウンカラーについて、全く違う視点からも考える様にもなりました。もしかしたらBrown Toneはシャフトの色を美しい茶色に仕上げる為だけでは無いのでは?ペインもレナードも、基本的にフレーミングによる表面の焦がしを行っていないのは、加熱による竹の劣化を防ぐ為であり、耐久性のあるロッドシャフトはナチュラルブロンドカラーが当然だったからだと思います。また、これも研究途上ですが、アルカリ性の薬品には木材を茶色く変色させる性質の他に、木材の細胞を柔らかくする性質があります。それを使って行われている『アルカリによる木材の曲げ加工』と言う技術は、古くからヨーロッパなどでも家具作りや木工業界で行われていました。ただし、ジム・ペインがその技術をバンブーロッドに応用して、シャフトの曲がりを矯正したかどうかは、当時のロッドメーカーの企業秘密だったので今では知る術はありません。残念ながら偉大なロッド、偉大なメーカー達はその製法を全て公開する事無く逝ってしまいました。グラスロッドやカーボンロッドが発明される以前は、それらのバンブーロッド製法が企業秘密にするだけの価値のある最先端の技術だったからです。今でも、当時のメーカーを受け継ぐビルダーが多少残ってはいますが、彼らも、それら当時の製法を全て公開する事はありません。
また、『熱が竹に与える影響』に関する研究の中で、更に重要な問題点もあります。これもバンブーロッドメイキングで普通に行われている作業で、鉈で割った竹の節の曲がりを、火やバーナーやヒートガンなどで加熱して、曲がりを直す『節の曲げ直し(ストレートニング)』と言う作業です。実は、これが竹のストリップにとって最も危険な行為と言える作業なのです。アメリカのバンブーロッドメーカーの中には、この作業を、竹にとっての『 Torture (拷問)』と表現しているビルダーさえいます。ハンドスプリッティングと呼ばれる、鉈や竹割り器を使って繊維に沿って割る工法で割られたストリップは、節ごとに大きく左右に『ジグザグ』に曲がっています。そして、それを真っ直ぐにする為に『くの字』に曲がっている節の裏側を真っ黒に焦げる程の温度で焼いて曲げ直します。1度の加熱で真っ直ぐにならない場合は2度3度と焼いて直します。勿論、その時点で節の前後は軽く170℃を越え、節の前後の細胞は熱分解(炭化劣化)してしまいます。更に、ストレートにならない場合には、節を曲がりとは逆方向に曲げるので、ピキピキ!ミシミシ!と音を立てて節内部の繊維が断裂(Crack)して行くのが判ります。バイスなどのプレス器具を使って節を曲げると、仮に音がしなくても節内部の繊維の接合部は確実に分離し、中にクラックが出来ています。その為、竹の中で最も強い部分である節が稈の部分よりも弱くなる事もあります。20年以上前からですが、バンブーロッドを作り始めた頃から、既にこの事には気付いていました。鉈で裂いた竹の節を火で炙って曲げ直すと、節の内部からミシミシと小さな音が聞こえてくる事でした。また、それを誤魔化す為に、手で曲げるのを止めて、万力(バイス)で挟んで伸ばしたりもしていました。しかし、それは、節が断裂して行く事に気付いている自分を誤魔化していたに過ぎません。柔かくなるまで焼いて曲げ直しても、明らかに節の細胞は、その結節を壊していたのです。恐らく、その事はバンブーロッドを作るメーカーの誰もが気付いているでしょう。しかし、How to 本に書かれているから間違ってはいない、或いは、皆がその製法で作っているのだから間違ってはいない、と言い聞かせているのかも知れません。そして、その事については今も封印され、殆ど誰も触れる事はありません。また、アメリカの有名ロッドビルダーの中には、『竹の中で節が最も弱い』と勘違いし、Webで公表しているビルダーもいます。しかし、元々節が弱いのではなく、焼かれて弱くなっっただけなのです。重要なのは、もっと竹の事を良く知る事です。真実を確かめる事です。それは、簡単な実験で解かる事なので、ビルダーでなくても、周りに竹が有れば誰でも実験する事ができるのです。まずは片っ端から竹を折って実験し、その強さと熱による影響の真実を知る事です。トンキンケインは高価なので、代わりに真竹などを使うと良いでしょう。まずは、ナイフなどで竹を半分、そして半分、半分と割って幅1p程度のストリップにします。そして、ジグザグに曲がっている節の部分を火で炙り(ヒートガン、アルコールランプ、無ければライターでも構いません)曲げ直しをしてみます。竹の裏側が黒く焦げる程度に焼くと、節や、その前後部分が柔らかくなり簡単に左右に曲がるようになり、曲げ直しできる様になります。そして、曲がり直した竹の節を挟んで30〜40cmの所を持ち、折れるまで曲げてみます。初めに竹の表面(エナメル側)を表にして曲げて折ってみます。折れるのは殆どの場合、節その物では無く、節の前後1〜2pの稈の部分が折れます。次に裏返して折ってみると、更に簡単に節の前後1〜2pの部分が折れます。これは、節を曲げ直す時に同時に熱っせられた、節前後の『稈』部分の細胞が熱分解により劣化して弱くなる為です。更に、節を焼いて熱っしながら左右に水平に曲げてみます。そして、そのまま力を加えて折れるまで曲げると、曲げ初めのほんの少しの力で節部分にクラック(ひび)が入り、簡単に折れるのが解かります。釣り竿と言うのは360度、特にフライロッドはバックキャストが重要なので、全方向の曲げに対して耐えなければならないのですが、これらの熱劣化した竹を細く削ってロッドを作った場合の強度は容易に想像できると思います。特にバックキャスト時のロッドシャフトの状態を意識して、ストリップを裏返しに曲げるテストも重要です。そして今度は全く節を曲げ直していない(炎で焼いていない)、乾燥しただけの竹のストリップを同じ様に曲げて折ってみると、その強度の違いが明確にわかります。特に、炎で焼いていない竹は、節や節の前後は全く折れない事が解かります。殆ど、節と節の中間の稈の部分の細胞がちぎれてささくれ、折れて行くのが解かります。つまり、竹の節は弱いのではなく、最も強い部分なのですが、焼かれる事によって熱劣化して弱くなるのです。少しだけ炙る 、竹から煙が出る程度まで炙る、更に縁に火が付いて燃え出す直前くらいまで炙る、など数段階に分けて加熱して試すと、更に良く解かります。ミシミシと竹の繊維が切れて行くのが分かっても、折れる前に止めてしまっていけません。完全に折れるまで曲げて、加熱の度合いとその限界点を確かめる事です。そして、節を焼いていない乾燥しただけの竹と、焼いた竹の強度や弾力を比べる事によって、焼いていない竹のストリップは非常に強く、また弾力性や復元力も有ることが解かります。つまり、細胞が熱劣化していない非加熱の竹は強さと弾力性を維持しているのです。但し、非加熱の竹は、大きく曲げると曲がり癖が付き、元に戻り難くなるので、ヒートトリーティングと呼ばれる、ある特定の温度で管理された限定的な加熱処理を施す事によって、硬度と反発力、復元力を増加させる事が出来ます。それは、竹の細胞が熱劣化で脆くなる直前付近まで、安定した温度で加熱する事によって乾燥強化させる処理です。
それでは何故、竹の細胞を壊すリスクを負ってまで、必要以上に焼いてしまうのでしょう?或いは、曲がっている節を真っ直ぐに直さなければならないのでしょう?それは、過去100年以上前から、ロッドの出来上がりや見た目の完成度に拘って来たからです。つまり、ストリップを張り合わせて作るシャフトの精度を上げる為なのです。その為に必要な事は、まずストリップを正確な三角形に削らなければなりません。つまり、三角形の精度を上げるには、出来るだけストリップがプレーニングフォームの溝にピタリと収まった方が削り易くなるからです。そして、その為には表面の節山やエナメル質、湾曲して飛び出す部分、更には表層のパワーファイバーまでフラットになるまで削り取らなければなりません。ここでの最も重要な点は、綺麗な平面にする為には、パワーファイバーや節を削り過ぎてしまう可能性が有る事です。つまり、竹の最も強い部分である表層のパワーファイバーを無理に削り取ってまで正確な三角形を削り出そうとする事です。過去の銘竿と呼ばれるロッド達の場合も、表面をよく見るとシャフトの表面に浮き出ているパワーファイバーの線が太くなったり、細くなったり変化しているのが判ります。太い部分は白っぽく、細い部分は茶色い線に見えますが、そのファイバーラインの太さや色の変化は、凹凸に歪んでいる竹の表面をフラットに削り取った際に起こる現象です。つまり、左右では無く、上下に波打つパワーファイバーの表面を削り取るので、凸部分は太く、凹部分は細く、太さが変化して見えるのです。また、ストリップがプレーニングフォームにきっちり収まるように表面を鉋やヤスリで削り取る作業の他にも、バインディング後のはみ出した接着剤をサンドペーパーで削り取り去る作業も表層のパワーファーバーを削り取ってしまいます。また、この時点で、完成したシャフトの表面を更にフラットに修正したり、六角形の精度や対面幅の精度を調整する為に、シャフト全体の表層をサンドペーパーで削り取る修正作業もパワーファイバーを傷つけます。つまり、この様にシャフト表面の凹凸を削って平らに修正する作業によって、竹の表層部分にある最も太く、強いパワファイバーが多少なりとも削られ、切断されていると考えられます。
また、節が左右にジグザグに曲がっているストリップも、上下に歪んでいるストリップと同じくプレーニングフォームに上手く収まりません。更に、節のすぐ上の部分は極端に凹んでいるので、節山を削り取るだけではストリップがフラットにならず、凹凸になります。その為、レナードやペインの時代から行われていた工程にノードプレスと呼ばれる作業もあります。それは、節の左右の曲げ直しと同じ様に、上下の凹凸や歪みをフラットにする目的で、節の周囲を火で焼いて、万力の様な鉄の板で圧縮するのです。つまり、節上の凹部分と節の凸部分がフラットになるように竹を潰す作業です。これも、竹の細胞やパワーファイバーを押し潰す事ができるほど柔らかくなるまで高温で焼くので、細胞が熱によって劣化するのは当然の事と言えます。また、節を挟んで2系統からなる別々なパワーファイバーは、直線では無く多少の角度を持って節で結合しているのですが、それを平らになる様に上下にプレスすると、丁度、骨と骨の関節が脱臼した様な状態になって結節が壊れてしまいます。この行程もまた、表面の凹凸を無くしてプレーニングフォームに綺麗に収まり易くするのが目的です。即ち、これらの焼きや削り、潰しのオーバーワークは、竹の性質(熱によって細胞が劣化する事)を無視して、プレーニングフォームに無理矢理収める為の拷問であり、出来上がりの精度を上げる、或いは、ストリップを限りなく正確な三角形に近づけたいと言う思いから考え出されたテクニックです。しかし、果たして、ストリップの三角形にそれ程、精度を求めなければならいのだろうか?素材を弱らせてまで、精度を追求すべきなのだろうか?しかし、これらの拷問と呼ばれる数々の加熱修正は、ストリップやロッドシャフトに歪みや捩じれ、曲がりなどが生じない様にする為であり、それは、作る側の作り易さを向上させる事が目的で行われて来たのです。マテリアルその物に均一性があるカーボンなどの化学素材では、精度や数値に正確性を求める事で得られる利点は沢山あります。しかし、素材自体に大きなバラ付きのある天然素材に対して必要以上の精度を求めても、そこから得られる恩恵は殆どありません。逆に、その精度を求めようとする行為自体が劣化などの問題を起こす場合もあるのです。極端な言い方をすれば、見栄えや仕上がりの為に竹本来の強度や耐久性を犠牲にしているとも言えます。今となっては、只々疑問に思うだけですが、何故、そこまでロッドシャフトを真っ直ぐにする事に拘る必要があったのか?フレーミング、火入れ、矯めと呼ばれる曲げ直し、まさに火炎地獄とも呼べる数々の熱による拷問で、竹の細胞を壊してまでプレーニングフォームに収めて、綺麗な三角形に削り出さなければならないのだろうか?そして、そこまで真っ直ぐなシャフトに拘る事が、果たして釣竿の在るべき本来の姿なのだろうか?釣り竿の本質は見た目なのか、或いは、強度と耐久性なのか?作る側の利便性なのか、使う側が見た目に拘るのか?精度=職人技と言う間違った考えがそうさせているのか。私自身にとっては、この疑問と答に行き着いた事は非常に重要な意味を持ちます。堅牢で頑丈な物、或いは、動かない物、曲がらない物を作る場合には精度は重要になります。しかし、固定される事無く、常に曲げられ続ける釣竿と言う特殊な道具に必要な物は何か?まさに、この『仕上がりの精度』と『強度・耐久性』の関係は、お互いに相反する物であり、両刃の剣と言えるでしょう。全てに於いて完全なシンメトリーである事が良い訳ではありません。特に天然素材の世界に於いてはエイシンメトリーでも正解があるのです。
竹の表面側(パワーファイバー側)に多少の歪みがあっても、プレーニングフォームで上手く削り出すと、内側の2面の接着面はフラットに削る事ができるので、接着面の精度と接着力を維持する事ができます。但し、バインディング(接着)後のシャフトの表面には多少の歪みが出ます。しかし、その表面をフラットにする為には、外側の最も太くて強いパワーファイバーを削り取らなければなりません。それはバンブーロッドに最も必要な、竹の最強部分を削り取ってしまう事にもなります。バンブーロッドの生命線とも言えるパワーファイバーは表面近くの物が最も太くて強く、また、数も多いのですが、内側に行くほど細くて弱い上、数も少なくなって行きます。ですから、最も強い外側のパワーファイバーを出来るだけ残す事が理想なので、なるべく削り取らない様にしなければなりません。また、どの程度削り取られてしまったかは、ロッドシャフトの表面に現れるグレインと呼ばれる線を見ればわかります。竹表面のエナメル質だけを取り去った状態では、極細の茶色い線としてグレイン(パワーファイバー)が表面に表われます。更に表面を削って行くと、その線は徐々に太くて白っぽい明るい色の線になって行きます。この様にシャフト表面に白く太い線が見える状態では、パワーファイバーをかなり削り取っている状態と言えます。つまり、最も外側のパワーファイバーを残した状態のロッドシャフトは、表面に白っぽく太い木目(グレイン)が出でいない状態なのです。私も、昔はロッドシャフトの表面精度を上げる為に徹底的に表面を削って平らにし、徹底的に節を焼いて真っ直ぐに直していました。そして、それなりに真っ直ぐで、綺麗なロッドが出来上がり、鏡の様な表面に仕上げていました。しかし、今は多くの実験や研究などから、それらの過度な加熱や削り取る行為が竹の強度や耐久性を極端に落としてしまう事を知りました。その為、現在は極力竹を加熱しない製法をとっています。それが、Hexasstyle Bamboo Rod の非炎製法です。但し、この非炎製法(Non Flame method)で作られたロッドシャフトには、多少の捩じれや歪みが生じるのは仕方がありません。それは、ストリップや節を曲げ直ししないでプレーニングすると、どんなに高精度に削ったとしても、どうしてもストリップに暴れが出るからです。暴れと言うのは、曲がりや捩じれが生じると言う意味です。しかし、強度と耐久性を向上させる為には、節を無理矢理焼いて真っ直ぐに修正しない方が強度を落とさずに済むので、ストレートカットのストリップをプレーニングし、また、バインディング後(接着後)のシャフトが多少歪んでいても無理に加熱して真っ直ぐに修正する事はしません。通常、接着剤はライターで軽く炙ったり、お湯に入れただけでも劣化して剥がれて来るのは、誰もが知っている知識です。その為、Hexastyle では、竹の細胞を熱で劣化させない、また、ストリップを張り合わせている接着剤も熱で劣化させない非加熱製法を採用しているのです。また、接着完了後のシャフトは表面に溢れた接着剤を削り取る作業だけにし、表面を更にフラットにして、精度を求める為のサンディングはしません。それは、表層に近いパワーファイバーを極力削り落とさずに、少しでも多く残す事が目的なのです。兎に角、ロッドシャフトの強度と耐久性を維持する為には、竹の細胞と接着剤の両方を熱で劣化させない事が重要なので、過度の加熱によってシャフトを殺さない事です。つまり、多少の曲がりや歪みが生じたとしても、強度や耐久性を重視する事の方が釣り竿にとっては重要だと考えるのです。そして、その中で少しでも真っ直ぐなロッドシャフトを作る方法としては、竹を鉈やナイフで裂くのでは無く、ストレートにマシンカットする方法が最善と考えます。つまり、真っ直ぐに近いシャフトや、捩じれや歪みが殆ど無く、綺麗に仕上がっているロッドほど、節の曲げ直しや接着後の加熱修正が必要以上に行われていたり、表層のパワーフィアバーを削り過ぎている可能性があるのです。その様に過度の修正加工を施されたロッドシャフトは、見た目や見栄えは良くなりますが、強度や耐久性に問題が生じる可能性が高いと言えるのです。ですから、強度や耐久性を落としてまでプレーニングの精度を上げ、見た目に拘るのか?或いは、多少歪んでいても、シャフトの強度と耐久性を維持するのか?この両立できない要素のどちらをメインにするのかを選択しなければなりません。ペインやレナードの銘竿と呼ばれるモデル達のロッドシャフトも、節の部分をよく見ると『くの字』に曲がったままプレーニングされ、張り合わされている事が判ります。また、パワーファイバーのラインはロッドシャフトと全て平行と言う訳では無く、ストレートグレインにはなっていないのです。それは、節を完全に真っ直ぐに曲げ直してはいない事を意味しています。バンブーロッドの材料である竹と言う素材は、その元々の構造上の問題から、『見た目』と『強度・耐久性』の共存を許さないのです。そして、その究極の選択の中から、私はこの20年行って来た見栄えや精度を捨て、新たに、強度と耐久性の向上を選択したのです。全ての行程に於いて、竹を170℃以上にしない。接着後は火で炙らない。これらの非炎・非加熱製法は、過去の私の『綺麗なバンブーロッドを作る』製法を根底から覆す物かも知れません。そして、これらの『竹と熱の関係』についてはバンブーロッドメイキングの世界でも、誰も触れて来なかったタブーなのかも知れません。仕上がりの精度の為にはシャフトの強度が落ちる事にも目を瞑ったのか、耐久性よりも見栄えを優先させたのか?100年前から今迄伝えられてきた製法は、見た目と精度に拘り過ぎていたのではないだろうか?当時から美しさと精度を競い合って来たからだろうか?或いは、現在の様な20年、30年と長期間性能を保つ化学マテリアルが無い時代の考え方が数年使えれば良しとしたのだろうか?今となっては判らない事だが、殆ど使われずに折れなかったヴィンテージロッドが、偶々、沢山残っているので、それらのロッドは耐久性があると誤評価しているのかも知れない。もしかしたら、これらはパンドラの箱なのかも知れない?しかし、確かパンドラの箱の中に最後に残っていた物は『希望』だった筈だが・・・。
Part #6
竹の繊維と細胞の真実。ハンド・スプリッティングは竹の繊維を引き裂いている。
構造と性質について。パワーファイバーは節ごとに別々の物であり、1本に繋がってはいない。)
The power fibers are not connected.The most important knowledge.
Negative chain.
バンブーロッドを製作する上で、これは最も重要な知識(事実)ですが、竹の稈の繊維(パワーファイバー)は各節ごとに切れていて、元々、根本から先端まで1本に繋がっている物ではありません。節と節の間の稈(空洞)部分を形成している繊維と、次の節間の繊維は全く別のファイバーであり、節ごとに太さや本数も変わります。つまり、竹の繊維は節の上下の繊維が節の部分で結合されているだけなのです。鉈やナイフを使って丸竹を縦に分割するスプリッティングと呼ばれる工程でも、ストリップが同じ幅で綺麗に割れずに、節を超える度に斜めに割れて行き、細くなったり太くなったりする事が有ります。ハンドスプリッティング(手割り)では良くある失敗ですが、これも、竹のファイバーが節ごとに本数が違う事から起こります。実際の所、節を越える度に次の稈のファイバーが何処から、どの様に割れて行くのかは微妙に判らないのです。その為、斜めに割れて行く失敗を修正するテクニックとして、鉈を左右に捻りながらテンションを微妙に変えて、割れる方向を修正して行くのです。丸竹を半分や4分の1に割った場合は、割れ方が綺麗に見えるので繊維が全て繋がっていると勘違いしても仕方が無いのですが、細く割って行くほど節の部分が綺麗に割れずに斜めに割れて行くので、ファイバーが別々な物である事が良く解かります。他にも、パワーファイバーが節を越えて繋がっていない事が解かるのは、ストリップをプレーニングしている時に起こります。通常、ストリップのプレーニングは、竹の下方から上方に向かって削りますが、節を越えて次の稈の部分に差し掛かると、突然、プレーン(鉋)の刃が繊維に食い込み、ささくれや割れが出来て、細胞と繊維を剥ぎ取ってしまう場合があります。それは、プレーンの刃が切れなくなっているのでは無く、節から伸びるパワーファイバーの角度が節ごとに変わるので起こる現象です。節を挟んだ上と下の繊維の角度は、通常、真っ直ぐでは無く、3度〜5度ほど曲がっています。竹が節ごとにジグザグに曲がっているのはその為ですが、更に、大きくジグザグに曲がっている場合は、角度が約10度も変わっている場合も有ります。ですから、節を曲げ直したとしても、パワーファイバーはストレートになる訳では無いので、カンナの刃が突然、繊維に食い込む現象が起こります。
竹は熱すると曲がりますが、プラスチィックや飴の様に伸び縮みする物ではありません。高温で焼かれて劣化した細胞は炭化が進み、弾力性を失って硬くなってしまいます。プラスティックやビニールでさえ加熱して変形させると分子構造が変わり、元の柔軟性や弾力性を失ってしまいます。ですから、外見からは判断でき無くても、焼いて曲げ直した竹は細胞の結束が壊れたり、節内部の繊維の結合が途切れたりしているのです。『ジグザグ』に曲がっているストリップを焼いて真っ直ぐに直しても、竹の繊維(ファイバー)が真っ直ぐに繋がるのでは無く、節の繊維結合を壊しながら、外見だけがストレートに見える様に加工しているだけなのです。更に、『くの字』に曲がっている節の部分を逆側に曲げて直すのですから、『くの字』の内角の部分の結束が引きちぎられて繊維が断裂し、節にクラックが入ってしまうのです。その為、レナード、ペイン、オーヴィス等は、ロッドの耐久性を向上させる為に加熱して曲げ直す必要の無い、マシーンカットでストレートに切り出したと考えられます。焼いて曲げる事による節断裂のリスクが無いマシーンカットの方が、竹、本来の耐久性をそのまま維持し、ロッドとしての耐久性も向上させると考えます。
鉈やナイフなどで割る通常の簡易的なスプリッティング(竹割り)は、竹の繊維を縦に切っているのでは無く、刃の厚みが楔の役目を果たして、竹の繊維を引き裂きながら割っていると言った方が適切です。楔の様な厚い刃がパワーファイバーを両側に押し広げながら繊維を縦に引き裂いているのです。そして、それによって起こる大きな問題点は、割れた部分だけでは無く、結果的にその周りの繊維にも大きく引き裂く力が加わる事です。ですから、綺麗に割れている様に見える部分のすぐ脇のファイバーにも、目には見えない程のひび割れや、ささくれ、剥離などのダメージを与えています。よくある事例としては、プレーニングフォームでティップ先端の細い部分を削り出していると、既に縁のパワーファイバーが2.3本バラけて来る事がありますが、それは、パワーファイバー同士の横の結束にダメージを与えている証拠と言えます。例えて言うならば、珍味でお馴染みの『裂きイカ』の様な物です。手裂きの裂きイカは、裂け目の周りの繊維が糸の様に解れていますが、それが手割りのバンブーストリップであり、機械でカットしたイカの燻製は、繊維がほぐれずに綺麗にカットされています。ですから、大量生産の為と思われがちな竹のマシーンカットですが、鉈やナイフを使って手で割るよりも、ストリップに与えるダメージが少なく、更に、曲げ直しの為にストリップを焼いて劣化させる事も無いので、より耐久性のあるロッドを作る事が出来ると考えられます。
ところで、何故、竹は素晴らしい弾力性を持っているのでしょう?竹の繊維は縦の引っ張り強度が非常に強く、機械を使って縦に引ぱっても殆ど伸びる物ではありません。つまり、竹が曲がるのは、湾曲する外側の繊維がゴムの様に伸びるのでは無く、内側の(曲がる方向)細胞が潰れて曲がるのです。そして、潰れた側の細胞が炭化せずに多少の水分を含んでいれば、復元力で元に戻ろうとする為、竹に弾力性が生れるのです。しかし、それは熱によって細胞が劣化していない場合に限られ、例えば、曲げ直しの為に裏側(柔細胞)を焼いたストリップの、焼いた面を外側にして曲げてみると、つまり、裏返しに曲げてみると、少しの力で簡単に加熱した部分の前後が折れてしまいます。また、折れる部分は加熱された節では無く、同時に加熱される節前後の稈の部分が多いのです。これは非常に重要な実験で、何故、裏返して曲げるのかと言うと、張り合わされたストリップは、シャフトの対面同士でで裏表になっているからです。ガイドが付く側と、その背側ですが、フォルスキャストする度に前後に曲げられる事で、常に対面のどちらかが裏側から曲げられる事になるのです。竹の硬さや強さを知る為にストリップを曲げる実験は誰もがやっている事だと思いますが、通常はエナメル側(パワーファイバー)を外側にして曲げるので、曲げに対して非常に強いと感じます。しかし、裏返しに曲げるとストリップは非常に弱く、パワーファイバーが少ない内側の柔細胞がすぐに剥離して、非常に折れ易いのが解かります。ですから、裏を焼かれて熱劣化したストリップは、張り合わされてシャフトになった状態でも、フォルスキャストの度に前後に大きく曲げられて、内側から折られる状態になるのです。つまり、ロッドが折れる大きな要因として、シャフト表面のパワーファイバーが切れて行く他に、同時にシャフト内部のストリップも裏側から切断されている事も挙げられます。その内部の繊維が断裂しているシャフトは、ほぼ外側のパワーファイバーだけが生き残っている状態であり、それは、パワーファイバーだけで作られる中空シャフトの構造と同じ様な状態になっていると言えます。つまり、中空シャフトの様に内部の繊維や細胞を削り取らずに、ソリッドのシャフトを強力な接着剤を使って作る事で、6面ある接着面を縦方向の骨格として利用した方がより強いシャフトになると考えられます。竹自体はヒートトリーティングで如何に強化しても、その強度と耐久性には限界があります。ですから、強力な接着剤の強度を出来るだけ利用できるソリッドシャフトの方が、耐久性を向上させる事ができるのです。接着剤に過度な依存してはいませんが、一般的なバンブーロッド製作ではフレーミングや火入れによる竹の強化だけが重視され、接着剤の重要な働きが軽視されているのは確かです。
また、ティップセクションの製作では先端の部分を幅1o以下まで細く削って行きますが、細くなった節の部分が突然ちぎれてしまう事もあります。それは、見た目では繋がっている節も、既に曲げ直しの際の熱で結束が断裂している場合があるからです。では、なぜ断裂のリスクのある節の曲げ直しをするのでしょう?現在でも、ロッドの表面に出る繊維が真っ直ぐな物をストレートグレインと言って、バンブーロッドの評価基準とする人もいます。その為、ファイバーのラインを真っ直ぐに整える目的と、前記の様にプレーニングフォームに入り易くすると同時に竹を削り易くする為です。しかし、繊維の見た目が真っ直ぐになったからと言って、元々、節ごとに別々の繊維で出来ている竹が、根本から先まで1本に繋がる訳けではありません。更には、バンブーロッド製作の基本である、斜めに削ってテーパーを付ける作業自体も、殆どのファイバーを断裂させているのです。例えば、ティップセクションを例に挙げると、1本のストリップのフェルール側(太い方)の幅が2oだとすれば、トップ(細い方)の幅は1o以下まで削ってテーパーが付けられます。つまり、単純計算してもフェルール側からトップまで削る間に約75%のパワーファイバーが削り取られ、切断されている事になります。即ち、テーパーを付けられたストリップのトップ部分には、太い部分から繋がるパワーファイバーが、たったの25%(4分の1)しか残らない事になります。ですから、ロッドシャフトのパワーファイバーが根本から先端まで繋がっている考えるのは全くの間違いで、逆に、そのパワーファイバーが切断された細いストリップを確実に接着し、強度と耐久性を持たせる接着剤の役割の方が、圧倒的に重要だと言う結論が導き出されます。更には、パワーファイバーが節を跨いでも真っ直ぐになっているシャフトは、曲げ直しの為に節を焼かれているのでファイバーが断裂している可能性が高いと言えます。参考までに、レナードもペインも実物はストレートグレインにはなっていないので、パワーファイバーはロッドシャフトを斜めに走っています。つまりそれは、節を曲げ直さずに、マシンで真っ直ぐに切り出したストリップをそのままビベラーとプレインで三角形に削りだしていたと思われます。その方が、節の接合を熱で断裂させないので、強力な接着剤を使えば、より強いロッドシャフトを作る事が出来ると考えられます。
『竹を知り、己を知れば・・・・・・。』 竹は日本では日常的に周りに溢れた素材であり、子供の頃から竹を使って遊び、誰しも見慣れた植物です。その為、先入観が生まれ易く、改めて竹の本当の性質や構造、特性を知る、或いは、研究する機会を持つことは殆ど無いと思います。自身の中に作り上げてしまう竹の見た目から来る思い込みや、間違った想像、勘違い、更には、間違った知識の伝承や継承などを払拭するには、植物学者の研究結果などを調べて竹の真実を知らなければなりません。そして、その竹の真実の中にバンブーフライロッドをより良い物にする手掛かりがある様な気がします。
先に述べた通り竹の繊維と言うのは節ごとに全く別の細胞が同時に成長して出来るので、パワーファイバーは節ごとに別々な物となります。文字通り、節とは竹の関節なので、竹の筋肉や骨にあたるパワーファイバーや柔細胞は関節を跨いで繋がってはいないのです。竹は筍の時点で既に全ての節とファイバーが形成されていて、それらの数も決まっています。そして、そのまま30mにまで成長しても、節の数は変わりません。また、全ての節に成長点細胞が有り、各節ごとに別々に稈(パワーファイバー)を成長させて行きます。それが全ての節で、丁度、アコーディオンの蛇腹の様に同時に伸びる事により、竹は急速に成長する事が出来るのです。つまり、1つの節と稈(節間の空洞部分)が1つのセクションになっていて、それが節の数だけ電車の様に連結されているだけなのです。また、竹は樹木など他の植物の様に成長しながら太くなることはありません。これも筍の段階で既に太さ、大きさ、強さが決まっていて、太い筍は太い竹に、細い物は細いまま長さだけが伸びて行きます。また、根元から上に行くにつれ、各節ごとにパワーファイバーの数が減り、階段状に細くなっているのは植物学者の研究などで解かっています。真竹の場合は根元近くで約3.000本有る繊維が、下から35段目の上部の節では120本にまで減ります。更に、途中の枝のある節を越える度にパワーファイバーが減少して行きます。節ごとにファイバーが減少して行く理由は、稈を走る繊維が次の節に行くと、枝や節に分岐して分かれ、約50%が節の隔壁と竹の枝を形成するからです。そして、節部分でパワーファイバーが50%減ると、次の節上の繊維が極端に減ってしまうので、その分、節の成長点で新たに約45%のファイバーが次の節まで伸びて行きます。それが枝節ごとに繰り返されるので、上に行く程パワーファイバーの数が減って行くのです。相対的には1つの節を超える毎に、下の節間よりも上の節間のファイバーが5〜10%減少して行きます。つまり、ファイバー数の減少が竹全体を階段状のテーパー形状にしているのであって、繊維自体が細くなってテーパーを形成しているのではありません。また、竹の枝は、ほぼ繊維で出来ている為に、非常に柔軟性があり丈夫な事は御存じの通りです。そして、竹の稈は枝が生える節(第11節)から上に行くに従って極端にパワーファイバーが減って行くので、ロッドを作る場合は、出来れば根元から枝下(第10節)までを使って作る方がパワーファイバーの量が安定しているので、より強いロッド作れると思われます。(真竹の場合、パワーファイバー数の最大値は根元から第3節の上の部分で、それより上側は緩やかに減少して行きます。そして、枝が生える部分から上側は急激にパワーファイバー数が減少して行きます。但し、枝の始まる節は竹の種類によって変わります。)
結局、曲っている節を焼いてストレートに直しても、パワーファイバーの結節が分断されて連結が途切れてしまう可能性が高くなります。そして、その弱ったストリップを張り合わせても、出来上がったシャフトは非常に弱いシャフトになります。これはバンブーロッド製作にとって最も重要な事実(知識)であり、学術的な植物(竹)の構造や性質などの本質を知る必要があります。私も例に洩れず20年近くもの間、世界中の殆どのバンブーロッドメーカーが行っている様にハンドスプリッティングで竹を割り、曲がっている節を焼いて真っ直ぐに直して来た訳ですが、これらの竹の本質、即ち『パワーファイバーな繋がってはいない』事についての研究結果は私自身にとっても『目から鱗が落ちる』ほどのショックでした。当然の事ながら日本の大学の『竹の構造』の詳細な研究発表をWeb上で目にするまでは、私も竹のパワーファイバーは根本から先端まで繋がっている物と信じ切っていましたし、節ごとにジグザグに曲がっている竹を真っ直ぐに直す事でパワーファイバーも真っ直ぐになる物だと思い込んでいました。竹の外見から判断すれば、誰もがそう思っても仕方が無い事です。当然、竹全体を取って見ても、根本から先端にかけてのテーパー形状を見る限り、パワーファイバーもテーパー状になって先端まで繋がっていると思いがちです。そして、まさか節ごとに別々に稈を構成している事や、パワーファイバーが先端に向うに従って本数を減らしながら全体のテーパー形状を作っているとは思ってもみませんでした。
※上記の研究成果を導くデータとして、竹のレントゲン写真や、薬品で柔細胞を溶かしたファイバー(繊維)だけの写真、節の繊維の顕微鏡写真などを見る事ができました。竹の構造や性質について、見た目からの想像では無く、科学的な研究による真実を知る事を出来たのは、バンブーロッドを造る上で非常に重要な知識を得たと思っています。
これらの竹の真実を含め、如何に情報が少なかったとは言え、私も How to 本から得た知識と製法だけを信じ込み、竹その物の構造や性質を植物学レベルまで研究する事無く、バンブーロッドを作ってきたのは事実です。そして、バンブーロッドの耐久性を向上させる製法の再考や研究が、パワーファイバーは竹の節ごとに全く別の物であり、元々根本から先端まで1本に繋がってはいないと言う事実や、それを焼いて真っ直ぐに曲げ直しても、節のファイバー結合部分を熱劣化させ、クラックを入れてしまうと言う事実を教えてくれたのです。そして、最も強い状態の竹でロッドを作る方法がマシーンによるストレートカットだと解かった事や、最も優れたバンブーロッドの製法が、レナードを代表する当時のメーカーによって80年も前に完成していた事など、私も、もっと早く植物学の見地から竹を研究して、真実を知るべきだったと思います。WEBには植物学者の素晴らしい研究結果が数多く公表されています。既に’50年代に発表されていた著名な植物学者による研究結果は、竹のレントゲン写真や薬品を使って竹の柔細胞を溶かし、パワーファイバーだけにした節の写真などが添えられていました。バンブーロッドを作る為に何故これらの日本の深い知識を調べなかったのだろう?今とは違い、当時はWEBも無く、有益な情報が入手困難だったとは言え、今まで何も疑わずにロッドを造ってきた時間が残念に思えてなりません。伝説のHow to 本の初版は1977年で、日本国内に大量に輸入されたのは’85と’94の再販時だと思われます。しかし、今、真実を知る事が出来た事を、私自身、非常にラッキーだと思っています。
では果して、世界のビルダーはこの事実や真実を知った上で、節を焼いて曲げ直しをしているのだろうか?手作りマイロッドの製作本は、この事実を知っていて、節を焼いて曲げる方法を広めたのだろうか?もしかしたら、パワーファイバーは節を越えて根元から先端まで1本に繋がっている物だと勘違いしていたのでは無いだろうか?炎による熱で竹の細胞が変質し劣化するとは思わなかったのだろうか?竹と言う植物の生態や構造、性質を本当に把握していたのだろうか?恐らく、一部のメジャーなロッドメーカーを除いては、竹は焼く事によって柔らかくなり簡単に曲げる事がで出来る、そしてもっと焼けば炭化して硬くなる。それらの経験と、竹の見た目から想像した性質でバンブーロッドを作っていたのでは無いかとさえ思えます。決して手軽に加工出来るハンドスプリット(手割り)が間違いだとは思いませんが、それは『自分で使うためのマイロッド製作』の方法であり、大掛りな機械を使わなくても簡単にパーソナルユースのロッドを作れる趣味のロッド製法なのです。つまり、耐久性を最も必要とする製品としてのバンブーロッドとしては不十分だと思われます。その為、竹の細胞を破壊せずに、耐久性のあるロッドを作るには、レナードやペイン、オーヴィスの様にマシーンでストレートに切り出した竹を張り合わせる製法、火で焼いて曲げ直しをしない製法が、より耐久性の有るロッドを作る最良の方法だと考えます。恐らく、多くのバンブーロッドメーカー達は竹はアジア原産の植物なので、竹と言う植物をあまり深く研究せずに作っていたのかも知れません。手で割った、曲がった節を簡単に真っ直ぐに治す方法として安易に竹を焼いていたように思えます。
Hexastyleが現在取り組んでいる、竹を焼かない、炎による熱で細胞や繊維を壊さないバンブーロッドの製法、竹の細胞を炎で焼く事によって起こるオーバーヒート(加熱過剰)で炭化・劣化させずに、竹本来の強さと、柔軟性、耐久性を長期間維持する Non-Flame 製法が『地動説』である事を私は願います。そして、フライフィッシングの中のバンブーロッドと言う宗教が唱えてきた『天動説』が、竹を火で焼いて加工し、細胞にダメージを与える製法である様に思えます。
下の写真は竹の節部分の拡大写真です。竹の構造と本質を理解する上で最も重要な事ですが、パワーファイバーは明らかに節を挟んで上下が繋がっていない事が解かります。これはバンブーロッドを作る上で最も重要な事であり、最低限必要な知識です。
Below. The expansion photo is the node section of bamboo strip. Power fiber is not connected to across the node section clearly.
ストレートニングと呼ばれるストリップの曲げ直しは、竹を繊維に沿って割った場合に必ず曲がってしまう節の部分を加熱して曲げ直す作業ですが、この節の部分を高温で焼いて左右に曲げ直しすると、節の中心部の繊維接合点の細胞が熱によって劣化剥離し、パワーファイバーの接合が完全に内部で分離してしまいます。また、分離や劣化の度合いは見た目では判り難い上、内部にできるクラック(ひび)も外からは見えません。しかし、ストリップを裏返しに曲げて折ってみると、ほんの少しの加重で折れる事からその弱さが解かります。節の周りを焼くと節内部のファイバーの結節点が熱劣化して折れ易くなるのですが、特に、同時に炙られる事になる節の前後2〜3pの稈の部分も非常に熱に弱くなり、少しの加熱で折れ易くなる事が解かります。また、写真下側の節のすぐ上の凹み部分までフラットに仕上げる為には、パワーファイバーや節山など、表層の多くを削り取らなければなりません。また、ノードプレスで凸凹を潰す場合も、非常に大きな熱で節部分を加熱しなければならないので、節やその前後の細胞を熱で劣化させる可能性が高くなります。
When you bending this section to the straight with a high temperature at fire,
detachment of power fiber will deteriorate the junction of the center of node section. It is because the bamboo cell degradation by heating. Degree of degradation is not possible to know in appearance. When you fold the strip inside out, you will be able to know its weakness. It tends to be particularly weak is an inch around the node.
竹との係りが長く深い日本の歴史の中から竹を曲げる方法を調べてみると、水に漬ける、蒸す、煮る、焼く等、色々考えられて来た事が判ります。今でも様々な竹製品や道具が作られますが、それらの竹製品には釣り竿の様に弾力性(反発力)を求められる特殊な物は殆どありません。竹を加熱するのは湾曲させたり、形状を変えるなどの場合が殆どで、弾力性よりも寧ろ硬さと強度を求めて加工されます。中でも釣り竿以外で、唯一、反発力と耐久性の両方を求められるのは、1.000年以上の歴史を持つ弓ですが、弓も基本的には弓竹本体に火入れは(炎で焼く)していません。メインとなる『外弓』(外側のナチュラルカラーの大きな一枚の竹)は耐久性を重視し、折れるのを防ぐ為、火で焼かずに乾燥させただけの物を使用します。但し、より威力(反発力)を増す為に『内弓』(2枚重ねる竹の内側)は多少加熱して硬くします。更に反発力を強くする為にグリップ内部にある『弓芯』と呼ばれる部分には、竹を強く焼いて硬く硬化させた物を入れて作ります。ですから、弓に於ける竹の火入れの目的としては、耐久性では無く、硬くする事から生まれるパワーと破壊力の向上と言えます。弓は耐久性よりも破壊力(飛距離)を優先させる武器ですが、流石に折れ易くなるのを避ける為、焼いて硬くするのは一部分だけに留めています。また、弓の製作工程から学べる事は他にもあります。弓は1本の丸竹から1つしか作りません。まず、丸竹を4分割するのですが、その割り方にも独特の理に叶った方法があります。竹にも枝がありますが、竹の枝は木とは違い対面の2方向にしか生えません。そして、それを利用して枝の生えている2面だけを弓の本体に使います。それは、『芽竹』と呼ばれ、枝の生える2面は枝を正面に見るとジグザグに曲がっていないからです。その為、焼いて節の曲げ直しをする事も有りませんので、真っ直ぐで耐久性の高い弓を作る事が出来るのです。その代り、枝の生えていな残りの横2面(枝が左右に開いて見える面)は『脇竹』と呼ばれ、節でジグザグに曲がっています。ですから、曲がっている脇竹は小さく切って焼く事で、硬い心材『弓芯』として使うのです。これは素晴らしいアイディアと技術で、矢の「ブレ」を防ぎ、命中率を上げる為に弓本体には初めから曲がっていない『芽竹』を使い、ジグザグの『脇竹』は、曲げ直して使うのではなく、細かく切って使うと言う素晴らしいアイディアです。これは、曲げ直しの加熱をしてない強い竹を使う工法なので、バンブーロッドにも応用できますが、ジグザグに曲がっている『脇竹』(竹の50%)を破棄しなければならないので、非常に効率の悪い使い方になってしまうのが難点です。バンブーロッド作りの、1本の竹を6の倍数に割って使う工法は、竹をムダにする事無くロッドを作る合理的な方法ですが、節ごとにジグザグに曲がっている『脇竹』にあたる部分は、焼いて曲げ直さなければならないのが弱点だと言えます。
レナードやペイン、また、その他の銘稈と呼ばれるロッド達に、100年近くもの間折れずに使われて来たロッドが多いのは、加熱による節の曲げ直しをしていなかった事が挙げられます。また、前記の様にマシーンカットによる竹の切り出しで、ストリップは初めから真っ直ぐに切り取られ、そのままベベラーで三角形に削りだす事で、竹その物に熱による大きなダメージを殆ど与えていなかった事もあります。一般的に機械を使っての製作、つまり、竹カットやラフ・プレーニングを、ただの大量生産、時間短縮、作業の簡素化と考える向きもありますが、実は、機械を使って始めから真っ直ぐなストリップを切り取る事の裏には、節の曲げ直しをしなくても良い、つまり、熱を加えて竹の繊維断裂と細胞の結束を壊してしまうリスクは無くし、加熱しない事で竹本来の強度と耐久性を維持すると言う天才達の考えがあってのマシーンカットだったと言えます。もしかしたら、竹を焼かずに熱を全く加えない製造方法の方が、しなやかで、尚且つ張りが有り、より耐久性のあるロッドが出来るのではないだろうか。竹の細胞を熱で壊さないロッドこそが最も耐久性があるのではないだろうか?そして、それらのロッドこそが今日、銘竿と呼ばれ、数多く現存しているロッド達ではないだろうかと思えます。つまり、要所要所で機械を使う事によって、より高性能な優れたロッドが出来るのであれば、それは否定されるべきではありません。欧米でも日本でも、現代の機械化、大量生産化の中でハンドメイド崇拝が台頭して来たのは確かです。手間暇掛けた手作りの物は何よりも素晴らしい、と言う風潮になっているのは確かです。もしそれが、機械の使用を否定しているのであれば、ハンドメイドの製品レベルは、この先も向上する事は無いでしょう。例えば、コンピューター制御のCNC旋盤で精巧に加工された、薄くて軽いニッケルシルバー製フェルールはバンブーロッドの性能向上に不可欠です。美術品の様な外見のバンブーフライロッドですが、これは釣り竿と言う道具です。道具なのだからその性能や耐久性、使い易さは常に向上されるべきだと考えます。
曲げ直しの為に節を焼かれたビンテージロッドが、現在、殆ど生き残っていない事と、マシーンカットのストレートなストリップで作られたレナード・ペイン・オーヴィスなどのロッドが多数現存しているのは、果してただの偶然なのだろうか?竹に大きなダメージを与える製法がHow to 本によってポピュラーにされてしまったのではないだろうか?そんな疑問を抱き、新たに検証しようと思う様になって何年経ったのだろうか?WEB上のバンブーロッドフォーラムには、アメリカのビルダーが『現存数の少ない有名ビンテージロッドなどの中には高温加熱製造された為、殆どが折れてしまったので現存本数が少ない。』と言う旨の意見を公表しています。また、曲げ直しを必要としないマシーンカットでの切り出しを推奨しているメーカーもあります。もしかしたら、『個人の為の趣味の手作りバンブーロッドメイキング』を解説した本が世界中のフライフィシャーをパーソナルユースのロッド作りとプロダクションロッドの製造法を勘違いさせてしまったのではないだろうか?いつの間に竹を火で焼いたり、強い熱を加える事がバンブーロッドメイキングの常識になってしまったのだろうか?何の疑問も抱かずに竹を焼き、加熱してきたロッドメイキング。これは、アメリカのバンブーロッドメーカーの間で、今も議論され続けている大きな問題です。いや、最近になってそれらの問題点に気付き出したビルダーが徐々に増えて来たとも言えます。そして私も、自分が学んで来た間違った知識や思い込みを払拭し、本当に納得できる真実を見付け出さなければ良いロッドは造れないと気付きました。その為、現在 Hexastyle Bamboo Rodでは『Non Flame method』(非燃製法)と名付けた、ロッドを炎で焼かない製法、高熱で竹の細胞を劣化させない工法を採用していまが。それは、フレーミングで表面のパワーファイバーを焼かない、曲げ直しの為に節の裏を焼かない、の大きく言えば2点です。但し、竹に張りと強度、反発力を持たせる為のヒートトリーティング(熱処理)は竹の細胞に出来る限りダメージを与えない程度の適温で行います。ただし、これらの研究結果は各分野から収集した知識や研究・実験結果と自らの実験結果から導き出した答えであり、通常のバンブーロッドメイキングで行われているハンドスプリッティング工法やフレーミング加工を否定する物ではありません。ロッドメーカーではなく、ホームビルダーがパーソナルユースの為の趣味のロッドを自作するのであれば機械や道具が少なくて済むハンドスプリッティング(手割りと節の曲げ直し)工法の方が簡単に作れるのは確かで、自分のロッドを自分で作ってみたいと言う人には最適だと思います。
※参考までに最新のバンブーカッティングマシーンもご紹介します。これは、6分割された竹から1度に2本の真っ直ぐなストリップを切り出す画期的なマシンのプロトタイプです。1本の丸竹から12本のストリップしか切り出せませんが、完全にストレートに切り出せるので、節の曲げ直しをしないで、そのままビベラーでラフ・カットしてヒートトリーティングができます。初めに丸竹を6分割にする時も、マシーンでストレートにカットすると、ストリップがジグザグに曲がるのを防げるので、曲げ直しの必要が無くなります。
http://thebamboorodroom.yuku.com/topic/1187/NEW-TOYS-FROM-BELLINGER#.URNckaVWx8E
http://www.kenhintz.com/webgsaw.html
※ビベラー(電動カンナ)とハンドプレーニング(手削り)伝説に関する解説です。竹のストリップを三角形に削り出すマシンである【 Beveler 】。1868年に初めてこの機械でロッドが作られて以来、全ての偉大なるロッドメーカー達が、このBevelerでストリップを削り出してきました。例えば、Leonard, Orvis, Payne, Gillum, Dickerson, Thomas, Edwards, Young そして Montagueなどもそうです。つまり、これらのメーカーが創り出してきた全ての銘竿達はビベラーを使って製造された物なのです。アメリカのバンブーロッドメーカーのサイトでは、ストリットを手で削る(ハンドプレーニング)はアマチュアビルダー、ホームビルダーの為の製造方法であり、セミプロだったギャリソンとカーマイケルが出版した本の影響で「ハンドプレーニングが最高の製法」だと言う誤った認識が広まったのだと表現しています。ハンド・スプリティング(手割り)やハンド・プレーニング(手削り)、竹を炎で焦がす(フレーミング)などのバンブーロッド製法は、1977年にアメリカで出版された上記のカーマイケルの本に書かれた製法であり、ペイン、レナード等の伝説のビッグメーカーのロッド製法とは違います。それら、伝説のメーカー達は、その製法を『極秘扱い』としていた為、全てを公開される事はありませんでした。私を含め、世界中の殆どのバンブーロッドメーカーは1980年以降に、この本の影響でロッドを作り始めました。それは、機械などの大きな投資をしなくても、誰もが簡単にバンブーロッドを作る事ができると言う手軽さが大きな理由です。極端な話、少し器用ならばナイフとカンナがあればロッドが作れると言う物でした。その為、この簡易的な製法はバンブーロッドメイキングの主流として世界中に広まり、多くのビルダーとロッドを作る事になったのです。しかし、この簡易製法で作られたロッドは、基本的にペイン、レナードとは違う物であったのは当然の事と言えます。
http://www.flyanglersonline.com/features/bamboo/part115.php
また、ヴィンテージバンブーロッドの評価に関しても、決してロッドの性能で適正に評価されていないのが現状だと思われます。永い年月の間に折れてしまった為、現存しているロッドが少ないロッド程、高額で取引されている場合が多いのです。希少価値と言う当然の価値観から来る値段なのですが、高値だからと言って良いロッドだとは限りません。それはコレクターがオークションなどで作り出す特殊な価格であって、釣り竿としての適正な評価ではありません。現存本数が少ないと言うだけで、コレクターが高額で落札します。そして、その価格がまるでロッド評価の様に捉えられ、ロッド伝説を作ってしまうのです。しかし、これら世界中のコレクターのお陰で銘竿と呼ばれるロッド達が現存して来たのも、また事実なのですが・・・・・。今、アメリカではバンブーロッド人気を利用した、投機的意味合いでのロッド売買が横行しています。その為、価格がまた高騰し始め、純粋にそのロッドが欲しいとか、使いたいと言う釣り人の手には届かない、異常状態になっているのは残念な事です。
それら、ヴィンテージロッドの中でも、レゾルシノールが登場する1930年代以前に作られた伝説のロッド達は、ストリップの接着を『 Hide Glue (膠)』で行っているので、今ではシャフト内部が殆ど剥離していて、そのまま実釣には使えないと発表しているヴィンテージロッドのコレクターズサイトもあります。ですから、もしそれらのオールドロッドを今、実際に釣りに使うのであれば、シャフトを6本のストリップの状態にまで完全に分解し、新しい接着剤でバインディングし直して、リビルドをした方が良いでしょう。実際に、1930年代以前のオールドロッドをリバーニッシュだけでは無く、完全に分解してレゾルシノールやエポキシ接着剤で再度、張り直してリビルド(レストア)し、実釣で使えるようにしてから販売しているところもあります。インターミディエイトラップ(段巻き)されている古いロッドなどは、シャフト自体が柔らかいからスローアクションなのでは無く、ストリップの内部が剥離してしる為にスローなアクションなっている可能性が大きいのです。ですから、シャフト内部の接着剤が剥離している不完全なヴィンテージロッドをそのまま無理に使って折るべきではありません。折角の歴史的価値のある遺産を消失してしまいます。よく、接着剤やバーニッシュまでオリジナル(現存状態)に保つと言われるますが、いつまでもオリジナルのボロボロの状態に拘るのはナンセンスです。つまり、20年ごと、或いは30年ごとと、出来ればその時代ごとのオーナーがレストアして、作られた当時の新品状態に戻す方が良いと私は考えます。それは、汚れてしまった古い絵画をクリーニングして蘇らせるのと同じ事です。特に、ペインやレナードの様に後世に残さなければならない銘竿となれば尚更です。現存状態のまま使うのでは無く、レストアした方が良い理由はロッドアクションなどにもあります。シャフト内部の膠が剥離しているヴィンテージロッドのアクションは、そのロッドが作られた当時の新品のオリジナルアクションではありません。100年前の出来上がったばかりの時は膠が剥離していないので、張りのあるパリッ!としたアクションだったでしょう。本当のオリジナルと言うのは、その当時の新品状態のロッドアクションを再生し、使える状態に復元する事です。また、湿度の多い地方などでは全く使っていない状態でも数十年の歳月でバーニッシュが空気中の水分で溶けて剥がれて来ます。それらバーニッシュの古びたボロボロのロッドもオリジナルとは言えません。勿論、見た目も当時のオリジナルではありませんし、何よりもバーニッシュもロッドアクションに係って来るからです。長い年月の経過で剥離したロッドシャフトはオリジナルどころか屍と言っても過言ではありません。つまり、本当のオリジナルとはリビルドし、レストアして、出来る限り作られた当時のピカピカの新品に近い状態に戻す事だと思います。ですから、ヴィンテージロッドはリビルド、リバーニッシュして使うべきであり、決して現状のままの状態で無理に使うべきではありません。折ってしまえば2度とオリジナルに戻す事は不可能です。もし、見た目も現状のまま保存したいのであれば、それは実釣には使わずに博物館の様に飾って保存するしかありません。つまり、完璧なレストアが施され、当時の新品状態に戻された時、初めてヴィンテージロッドが生き返り、釣りに使うが出来るのです。例え、実釣にはあまり使われないとしても、それが釣り道具としてのビンテージロッドにあるべき姿だと思います。つまりそれは、いつでも川に出撃できる準備が整っている状態のロッドです。私の所有するペイン98(1950年代製)は、ペインメーカーの流れを汲む Walt Carpenter 氏、本人がレストアしてオークションに出品したロッドです。コルクグリップはオリジナルの汚れを削り取っているので少し細身になってはいますが、その新品当時の様なロッドの輝きやアクションは、まさにジム・ペインが作った50年代当時そのままを思い起こさせる物です。勿論、実物のヴィンテージ銘竿を実釣に使う事にはロマンがあると思うし、フライフィッシャーにとっては夢の様な事だと思います。ただ、私自身、今はどちらが良いのかは判りません。普通に使って折ってしまえば価値は全く無くなります。しかし、道具は使われなければならないとも思っています。そこに、ヴィンテージの銘竿に対するジレンマが生れるのです。恐らく、誰もが陥るジレンマだと思いますが、そこから逃れる唯一の方法が、いつでも使える状態に完璧にレストア回復し、尚且つ、大切に保存する事しか無い様に思われます。最近、アメリカのオークションに幻の中の幻の銘竿、「 ペインのパラボリック 」が出品されていました。しかし、2本のティップの内、1本は真ん中から折れて先端部分がありませんでした。そして、残る1本のティップも大きく曲がっているものでした。つまり、フライロッドとしては全く使う事ができません。もし、コンディションが良ければ$4.000〜$6.000の価値はあると思いますが、価格は2〜3万円程度でした。つまり、その価値は殆ど無いと言う事です。
話は戻りますが、耐久性のあるハイレベルなバンブーロッド程、その多くが折れずに残って来たので、逆に低価格で取引され、また、低い評価を受けてしまいます。例えば、フライフィッシング界に於いて最も大きな業績を残して来た、レナードやオーヴィスのインプリグネイテッドのロッド等がそうです。1940年代に開発されたインプリグネイテッド(フェノール樹脂含浸加工)のバンブーロッドは、それが持つ釣り竿としての性能や耐久性が高く、現在でもその多くが中古市場で流通しています。しかし、その高い耐久性の為に希少価値が無く、価格も安いので、また、評価も低くなっているのです。オーヴィスやレナードのフェノール樹脂(ベークライト)インプリグネイテッド加工のロッドは、表面に傷が着き難いので防水性も高く、折れ難いのも確かです。但し、ナチュラルケーンより多少スローなアクションになってしまうのが難点ですが、ハーディーやペゾンのスローアクションは良くても、オーヴィスやレナードのスローアクションはダメなのか?と言う事になります。つまり、ロッド本来の性能やアクションでは無く、仕上げや製法がロッドの評価を低くしている現状を見ると、まさに折れ易く、性能の低いロッドが高い評価を受けている事に疑問を持たずにはいられません。特に、ヴィンテージロッドを売買している世界に顕著に見られるのですが、何んだ、インプリか!と言って初めから見下しているのが分かります。折れ難く、耐久性のある素晴らしいロッド達が流通量が多いと言う理由だけで低い評価を受け、希少価値が無いからと言って安値にされ、明らかにインプリグネイテッドのロッドが見下されているのは、ロッドを作る私には全く理解できません。ナチュラルケインのレナードもインプリのレナードもどちらもレナードロッドであり、レナードの名を冠したロッドなのです。それは、竹もテーパーも同じで、ただ、工程の途中でフェノール樹脂に浸され、少し丈夫になっているだけなのです。それを、ナチュラルケインは良くて、インプリはダメだなどと評価している。その低い評価の理由は、中古品販売で値段の安い物は利益が少ないからだろう!バンブーロッドを投資の対象として見るからだろう!確かに、ナチュラルケーンのロッドの方が軽くて張りがあります。しかし、表面のバーニッシュは非常に水に弱く、目に見えない程度の傷からも水分が中の乾燥した竹に戻ってしまいます。また、ウレタン塗装でもほんの僅かですが、水蒸気を通す性質が有り、完全防水が出来ないのも事実です。しかし、フェノール樹脂のインプリグネイションはそれらを知り尽くしたロッドメーカーが敢えて作って来た拘りのバンブーロッド製法と言えるのです。フライフィッシングの雄、オーヴィスのウエス・ジョーダンは敢えてロッドの張りや軽さよりも釣り竿としての耐久性を選択してインプリグネイテッドを採用しました。釣り道具として、永く使える丈夫なロッドが軽視されている現在のバンブーロッド市場。例えば、釣り竿として買い求めるなら、軽くて張りはあるが折れ易いロッドと、多少スローアクションであっても永く使える丈夫なロッドの果してどちらを選ぶのだろうか?コレクターなら話は別だが、バンブーロッドを実釣に使うのであれば、より耐久性があるに越したことはないのです。私もバンブーロッドの耐久性を上げるには必ずしもインプリグネイテッドが最善だとは思いませんが、1940年代からあったインプリグネイション製法を、かのH,L Leonard のRon Kusse は、1998年にも今までの性能を超える新しいインプリグネイションのレジンとシステムを研究開発しました。そして、それは現在も製作・販売されています。このインプリグネイテッドと言う製法もまた、バンブーロッドの耐久性を向上させ、より実戦で使えるロッドを目指した結果と言えます。フライフィッシングを知り尽くした男がバンブーロッドに何を求め続けるのか?彼の探究心と向上心は何処へ向っているのだろうか?ナチュラルケインが最高と評価される現代にあっても、敢えてインプリ・ロッドを研究し続ける理由は、やはり釣り竿の原点である耐久性の向上に他ならないと思えます。
バンブーロッドに釣り竿としての実用性や耐久性を本当に求めるのであれば、ナチュラルケインよりもインプリグネイテッドの方が勝っています。しかし、インプリグネイション加工には『真空含浸装置』と言う高価で大掛かりな装置が必要な為、個人でインプリグネイテッド・バンブーロッドを作るのは中々大変な事です。また、個人でカーボンのブランクを手軽に作れないのも、同じく『真空加熱窯』や『マンドレル』など大掛かりな設備が必要だからです。その為、手軽な道具で簡単に作れる、手作りバンブーロッドの製法がHow To本の出版と共に世界中に広まったのです。そして、現代のハンドメイド崇拝が手作りバンブーロッドの価値をより高める事になったと言えるでしょう。
では、果して『ハンドメイドだから良い物』なのだろうか?機械が無いから鉈やナイフで竹を裂いているだけではないだろうか?結果、曲がって裂けた竹を真っ直ぐに直す為に、火で焼かなければならい?しかし、曲がっていなければ、焼く必要も無いのである。
恐らく、現在のバンブーロッドを取り巻く環境は、製作機械や道具が無くても、少ない道具で簡単に作れる『自分で使うマイロッド製作』の手作り簡易製法と、強度と耐久性を兼ね備えたレナード・ペイン・オーヴィスなどの『プロダクションとしてのバンブーロッド製作』を混同しているのかもしれません。パーソナルユースの趣味の手作りロッドが製品になると勘違いしているのかも知れません。アメリカの多くのビルダー達も、ペインのBrown Tone の様な深く奥行きのある茶色に似せたくて、竹の表面を炎を焦がしていると自ら言っています。そして、熱で劣化した耐久性の無いロッドを作った責任転嫁に、製作者自らがバンブーロッドは弱い物、竹竿だから折れるのは仕方が無い、そう言っているのを聞くと、この先、フライフィシャー達がバンブーロッドから離れて行くのは目に見えています。確かにバンブーロッドはカーボンロッドよりも取扱いに注意し、気を使う事に越した事はありませんが、作る側が弱いロッドを守る為の細かい注意書きを用意し、まるで、この先すぐに起こるであろうトラブルに対し、未然に弁護しているような気さえします。もし、少しでもバンブーロッドが弱くて折れ易い物だと思ったなら、その製作者に求められるのは、より強いロッドを作る研究と努力であり、弱さを擁護する事ではありません。誰もが手本にして来たHow To 本に書かれている知識や内容は著者がそう思っていただけで、必ずしもそれが真実や正解だとは限らないのです。自分自身のロッド製法に問題が無いかどうか?もっと良い製法は無いだろうか?或いは、今までの製法をこのまま信じて良いのだろうか?と自問するべきです。確かに竹はカーボンやグラスファイバーに比べれば弱い素材ではあります。だからと言って、弱いロッドを作って満足するのでは無く、何故弱いのか?何がダメなのか?どうすればより強くなるのか?常にそう考えて進化し続けなければならないと思います。バンブーロッドは使い物にならない。実釣に使う道具では無い。美術品の様な飾り物だ。コレクターズアイテムだ。巷ではそんな意見も少なくありません。釣果が全てでは無い唯一の釣り、竹製のロッドを現役で使えるフライフィッシング。これ以上、『折れ易いロッド』が流通すれば、フライフィッシングの中のバンブーロッド文化が衰退して行く可能性さえあります。自分で使うマイロッドならば、強度や耐久性はどうでもいいし、折れたらまた作れば良いのですが、製品として流通させるのであれば、そうは行かないのです。世のフライフィシャー達に見放される前に製作者自らが、自分の製法は間違っていないのか?どうすればより強くなるのか?なぜ、マシーンカットのか?なぜ、インプリグネイテッドなのか?今までの思い込みを全て捨て、常に製法を見直し、少ない情報から得た知識に自己満足する事無く、向上心を持って更に良いロッド、耐久性のあるロッドを作る研究をしていかなければならないと思います。レナードもペインも、オーヴィスもそうして来たのです。自らの知識や経験、実験研究などを積み重ねる事はとても重要な事ですが、自分の狭い世界から導き出される真実は非常に少ないのもまた事実です。ですから、バンブーロッド作りの為に竹に関する全てを多岐に渡って調べ、学ぶ事によって、より多くの真実を知る事が出来るのです。バンブーロッド作りに精度の低いフェルールを自作してオールハンドメイドだと胸を張っても、折れる寸前まで竹を焼いて真っ直ぐになったと喜んでも、その結果は何れ出ます。そんな世界のバンブーロッドの現状を考えながら、今、自問し、研究し続けている自分がいます。確かにナチュラルケイン工法の方が含浸加工のロッドよりも張りやアクション、軽さ、美しさなど、多くの点で勝っています。しかし、釣り竿として最も重要な耐久性の点では明らかに含浸工法に軍配が上がります。ですから、ナチュラルケイン工法の弱点である、耐久性の向上を図る研究開発をしなければならないのです。
竹と熱の関係、それはバンブーロッドにとって永遠の課題だと言えるでしょう。そして、本物を作る為には、釣り竿製作以外のノーハウを数多く入手して、今一度、根本から真実を探究し直す必要がありそうな気がします。フライフィッシングとバンブーロッドは欧米の古くからの文化ですが、幸い、日本には竹を使った製品と技術、経験が欧米以上に沢山あります。それらの日本の竹文化、竹工業、植物学の中には、より多くのヒントがあると思われます。アメリカから入ってきた、フライフィッシング文化、バンブーロッド文化、ロッド製法ではありますが、そろそろ、それらに対する憧れだけでは無く、日本でもその製法を根本から見直し、独自に研究開発する時が来ている様に思えます。昔からの製法に囚われる事無く、また、それを鵜呑みにしてコピーするだけでは無い、より進化したバンブーフライロッドの製法を追求する。トンキンケインと言う最高の素材を使った素晴らしい工法、その画期的なロッド作りのアイディアに現代の化学技術をプラスすして、更にロッドの耐久性を増し、進化させる事が可能になります。そして、より使い易いタフなバンブーロッドでフライフィッシングを楽しみたいものです。 |